乗客の状態2


 ジューシーは明くる日から、シャンソンを歌う会をやりたがったが、彼女は越路吹雪のテープ一本を持って来ただけで、私はあんまり伴奏のテープがない。ピアニストのサーシャを頼んでみる事にした。
  「サーシャのピアノで歌うシャンソン」という自主企画をたてて、二人でやることになった。彼女は、自分が目立てば後はどうでも良いという性格で、責任感がない。自分の出番がないとすぐに「約束を忘れていた」と帰ってしまう。
  主催者がそれではどうしようもない。私は彼女の提案なので遠慮していたけれど、みんなが発表会をしたいという段階になって、あまりの無責任さに呆れて自分だけでやる事に決めた。
  企画自身は二人のものだけど、実際は私とサーシャでたちあげた。とにかく、25人もの人をすっぽかして翌日「ハーイ、おはよう」だけで謝りもしない。私は怒って「ジューシー、ここでみんなに謝りなさい」といわなければならない。
  けれど彼女は「わかってんのよ、うんのちゃん。私が悪い、ごめんごめん」とニコニコ笑ってるだけだから、話にならない。でも、会を華やかにするためには、彼女が必要なので、最後までつきあったけれど、しんどかった。
  出演者は、なんで私がジューシーを捨てないのか、不思議に思って色々言うけど、彼女は脳天気で何も考えてないのだから憎めない。とにかく、サーシャの努力も実ってみんなが満足できる会になった。
  家に帰ったら、出演者全員からお礼状やら贈り物などが続々届いて、死ぬ程疲れて、馬鹿だったと思った自分を慰めてくれた。よかった。
  41回は、自主企画,水先案内人企画,ピースボート事務局企画はタイムテーブルから溢れる程あったけれど、成功した企画として、私たちもみんなで満足できるものだった。サーシャのお陰である。

  44回の「フランス語でシャンソンを歌おう」はコンサートと無関係にただレッスンするだけと思っていたのに、「発表会はやるんですか?」と聞かれるとその気になったりもした。
  でも、やっぱり此の体力では出来ないと思う。全体に今回は自主企画が低調で、ピースボート側の企画もあまり魅力がない。スターがいない。後一ヶ月というのに新聞のタイムテーブルは自主企画で埋まらない。
  一人が1日に何回もやるのに、それでも空きが多いなんて。私の【フランス語】はかなり面白いと人気があって、廊下で【ボンジュール】などと挨拶しあう人も多く、毎日やってと言われるがとても出来ない。
  200人は少ないとスタッフの1人が言っていたけれど、1人1度の温度とすれば、200度低いということで生半の企画で火をつけても燃え上がらないんです。でも私自身もノリノリになるほどの気力が湧かない。今度は駄目!