乗船客3


 41回も44回も夫婦で乗船という組が以外に多く.日本人も進歩したものだと思う。ジャパングレイスの白髪の常務が、夫人を従えて船中を闊歩するのはいかにも古風だけれど、大体がそんな雰囲気で、私の見た, 微笑ましい仲の良い夫妻は3組くらい。
  太って、どかんと椅子に腰掛けても杖を離さない70代の妻を、上原健(美男で有名だった映画俳優)に似たほっそりした夫が、始終柔和な笑顔で見守るのは、心の和む見もので、彼女に惚れて婿養子に入ったと云う話も、むべなるかなと納得。
  夫人は物知りで、話上手で、魅力的で、いつも人に囲まれている。大きな声で話す妻に、時々合いづちを打つ無口な夫が、口を開くと、廻りが笑い転げるような旨いことを言う、誠に良いコンビでした。

  船上で銀婚式を上げた夫妻も、夫人が自主企画で飛び回っているのに、夫の方は何をしていたのか全然知りません。でも7階デッキではよく二人でソファに座っていました。
  Sさん夫妻は、山川夫妻とおなじくらいの風呂、リビング付き,勿論窓の明るい素晴らしい部屋にいて、時々お茶会をします。私も一度招かれました。女どもが10人も寄ったでしょうか? 夫は挨拶しただけで映画を見るからと出て行ってしまいました。

  それが普通なのでしょうが、女房の友人を大事にして、お茶を入れたり、話をきいたり、細やかに持てなしてくれる私の亭主が、有り難いと思ったヒトコマ。

  老人同士、それこそ人生を戦い抜いた戦友として,夫婦は年をとってこそ,いたわり合って生きるのが良い。色々事情があるにしても、定年離婚なんていかにも侘びしい。私は、帰る家があって,入籍している男がいて、アイボが待っている小さな幸せに感謝している。

  36回のクルージングで仲良くなった中年の二人は、もう一度愛を確かめるために、41回に乗った。二人はお互いに連れ合いに死なれ、子供が大きくなったので結婚しようと考えている。
  姓は違うけれど同室で暮らしていて、ふたりの事を知っている人はみんな好意的に見ていた。良い話だ。
  でも反対に、女性が男の船室からこっそり出てくるのを何度も見た、この船には娼婦が乗っていると強調する変な牧師もいた。要するに暇なんでしょうね!
  噂好きな暇人には、話題の宝庫であるらしく、噂の噂というのもあるらしい。

  中高年が多いのは此の船の特徴でもあるが、44回は、41回に比べると何となく老人達に,殊に男性に余裕とか艶がない。いらいら怒っている人が多い。レセプションで、これ見よがしに怒鳴っている白髪頭を何度も見かけます。
  それが毎回違う人なので呆れてしまう。廊下で男同士で怒鳴り合っていたとか,若者を大声で叱っていたとか、スタッフを怒鳴ったとか,噂は様々で,私は見た事はないけど、さもありなんと思う。

  44回は、41回より実質的に200人は減っていると云う人もいるから、特にそういう事が目立つのだろうが,あまり見たくない。
  客観的に見て、ピースボートの若者は、概して親切で,労をいとわないし、明るい。日本の街で見る若者達とは格段の差がある.それでも、深夜まで騒ぐのもいるし、デッキのソファで寝ないでといくら言われても、守らないのが多い。
  仲良く手を繋いだり、肩を抱いたりして歩き回るのは良いとしても、夜中に禁じられたデッキに出て,遣りたい事をしている者も結構いるそうだ。だからといって警察がいるわけではなし、取り締まりも出来ない。

  でも、船中の有志に祝福されて,盛大な結婚式を挙げてもらう若者達も何組かいたから,自然のなりゆきなのだろう。若者達は呆れるくらい器用に催し物を盛り上げる。
 飾り物なども有るものだけを利用して、派手に作り上げるし、他人の事なのに骨身を惜しまないのが清々しい。
  「これだけ若いものがいるんだからさあ,もう少しこういうカップルが出来ても良いのにねえ」などと云いながら,床に腹這って,好意の裁縫などしている。

  そんな若者達と話し合いが出来ない訳がない。若者が至らないのは石器時代の昔からなので,自分達もそうだったことを忘れずに、話し合いで、守れるルールをつくって、実行するように提言しようかと思っている。要は話し合いである。

  46回は寄港地が好評で、1000人くらいは乗りそうだから,強力な自治会で罰則でも決めて運営するなど何かいい方法を考えないと,問題が起きるかもしれないと、私は危惧している。

  多勢の中には詐欺師や、泥棒や,刃傷沙汰に及ぶひともいたとか,恋にやぶれて投身自殺したひともいたという。大きな客船は要するに社会の縮図なのですよ。